アルプスの山小屋を訪れよう!
山小屋の概要
アルプスの山小屋の全体についていえることは、
- 岩場、尾根上あるいはアルプであっても、安定した基盤の上に建てられている。 小屋は石造りが多い。
- 厳しい自然環境のこんなところに、よく建てたものと驚くような場所に小屋がある。標高が3000mを越えていたり、急峻な岩稜上であったり、このような悪条件のところでは、鉄骨等で基盤を造り、アルミ板等で外装されている。
- 外観が木材、石造り、アルミあるいは鉄板であっても、小屋の内装は肉厚のムクの木材が豊富に使用されている。
- 天井、壁、床、ベット、テーブル、椅子等すべて木材なので、小屋のなかは落ち着いた暖かい雰囲気で心がやすまり、心身共にリラックスできる。
- アイゼンの脱着は必ず小屋の外でする。そしてアイゼン、ピッケル、ストック等は小屋にはいったところにある指定された場所に置き、なかへは持ち込めない。靴もここで脱ぎ、備え付けのゴム製の内履きかスリッパに履きかえる。(この内履物はほとんどが特大サイズで、大は小を要るとはいえ、幼児が父親の靴をはいたようで、様にならずいつもひとりで苦笑いしている)
- 靴を置く棚の上には、みかん箱ほどの籠がある。部屋のなかで必要な水筒や食料、装備をザックから移して持ち込むためのものである。この籠は数年前までは籐製であったが、最近はプラスチック製にとって替わってしまった。
- ベットルームは、日本のような広間でなく、重厚なドアーのある部屋に分かれていて、部屋のなかは二段のベット(ドミトリー)になっているのが一般的で部屋の広さや形状はいろいろあり、4人部屋もあれば20人程詰め込めそうな広いものもある。形も長方形や、末広がりの扉状の部屋もあったりする。
- 部屋割りは翌日の登山ルートで振り分けられる。人気のあるやさしい山がいくつかある場合、日本とおなじように部屋にその山の名がつけられたりしている。(ガイドは、客とは別の専用の部屋がある場合が多い)
- 定められた起床時間になると、小屋番がモルゲン!、モーニング!あるいは 個人的にはタカシ!などと起こしにきてくれるので、時間を気にせず安心して寝ていられる。
- 小屋の周囲はすっきりと整理整頓さてていて、ガスボンベがむきだしになっていたり、プラスチックの箱が放置されていたりする日本の山小屋の周囲とはおおちがいである。
- スイスはもちろんイタリアでも国旗・州旗の掲揚ボールがあって、よほどの荒天でない限り高々と二つの旗がひるがえっている。
- 小屋の所有と管理は山岳会(SAC. CAF. CAI)のものがほとんどだがメンヒ小屋(グリンデルワルトガイド組合)やコスミック小屋のようなプライベイト経営の小屋もいくつかある。
- 山岳会所有の小屋番(ヒュッテキーパー)は所属ガイドが担当していて、未就学の幼児も一緒に家族一家できりもりしている場合がほとんどである。困難なアプローチにくわえて、氷河の真っ只中の小屋もあれば、子供の遊び回るスペースもない狭い岩場にある山小屋もあり、このような厳しい自然環境のなかで仕事と子育てを両立させている両親の姿はなんともまぶしい。
- 小屋の料金の仕組みは以下のようになっている。(料金は小屋によって多少の違いがある)
- 小屋の食事は夕食が7時から、朝食はその小屋の置かれている立場(対象の登山ルートによる所要時間)から決められている。モンテローザヒュッテでは2時にはokである。もっともこのように極端に早い場合は、お湯のはいったポット、テイパック、インスタントコーヒー、パン、チーズ等パーティ毎にテーブルに前夜のうちに用意されている。マッターホルンのヘルンリヒュッテやモンブランのグーテの小屋のようなところでは、「私は足が遅いから朝食は他の人より早くとりたい」などという希望はかなえてくれない。標準の所用時間で登れない人はその山をねらう資格がない、ということである。
- 小屋の食事はパーティ毎に大きな器で用意されて、ナイフ、フォークと共に皿やボールが人数ぶんだされるから、グループのなかで盛り付けする。
アベックや一人はまとめて一つのテーブルが指定され、これがまた楽しい。
料理は、ボイルされた肉やソーセージにパスタが出されることが多い。シチューのような肉の煮込み料理も数多く出されるが、野菜がでることはヨーロッパの一般的な習慣から希である。その代わりジャガイモはこれまた習慣からごってりとでてくる。スープであれ、肉、パンであれ、おかわりができる。ヒュッテキーパーが、"味はどうか" "もっとたべるか?"とテーブルを回るのはホテルでの食事の場合と同様である。はじめのうちは、いまいちなじめなかったので、モンブランやマッターホルン、モンテローザのような長時間にわたるビッククライムの時は、体調づくりのために、朝飯は持参した日本食を自炊した。 - キーパーが不在となる冬季は、8名ほど泊まれる寝具付き部屋と食器類・燃料そして非常電話も確保されていて快適に利用できる(使用料は備え付けの箱か、後日郵便振替で払い込む)
97年ムットホルン小屋(SAC)の料金表
カテゴリー | 宿泊費(SFr.) | 食費(SFr.) |
---|---|---|
A (1) SAC, CAF, CAI等山岳会員 (UIAA) | 17 | 26 |
B (2) ガイド | 10 | 26 |
C (3) 10才~19才 | 15 | 26 |
D (4) 一般(UIAA以外) | 25 | 26 |
E (5) 9才以下 ※ 一般的にはこのカテゴリーはない | 7 | 19 |
(私はいつも日本のマエバシアルパインメンバーだと申告して、ミットギルダー(会員)扱いにしてもらっている。)
山小屋の評価
山小屋の要件をあげるとすれば、雪崩や落石また荒天等の外的な危険を完全に避けられることは当然のことであるが、贅沢をいえば、
- 素晴らしい景観のロケーションにある。
- 設備が充実していて快適である。
- 登山史上の存在感と伝統がある。
- 真のアルピニストだけが訪れることができ、ツーリストや安直な登山者には、訪れることが困難である。
の4点をあげることができるが、次のようなカテゴリーによる評価をした。
カテゴリ | 評価 |
---|---|
AAA | 非常に素晴らしい |
AA | 素晴らしい |
A | 訪れる価値がある/標準的である |
4.のアプローチについては、登山(AA. A)、ハイキング(B)、ツーリスト(C)の4つに分類した。
カテゴリ | 評価 |
---|---|
AA | 岩登り、雪上歩行の基本技術が必要。天候が崩れた時はかなり難しい |
A | 地図と方針を使いルートファインディングができること。 |
B | 登山道と標識があり、日帰りの登山・ハイキングで登れる。 |
C | 観光客も立ち寄れる(ロープウェイ等で到達できる)。 |
リゾート | 山域 | 小屋名 | 標高 | 1. | 2. | 3. | 4. |
---|---|---|---|---|---|---|---|
シャモニ | モンブラン山郡 | クーベルクル | 2687m | AAA | AAA | AAA | AA |
エギーユ・デ・グーテ | 3817m | AA | A※ | AAA | AA | ||
テートルース | 3167m | AA | A※ | A | A | ||
グランミュレ | 3051m | AAA | AA | AAA | AA | ||
コスミック | 3613m | AAA | AAA | AA | AA | ||
アルジャンチエール | 2771m | AA | AAA | A | A | ||
クールマイユール | トリノ | 3375m | AA | AAA | AA | C | |
モンジーノ | 2590m | AAA | AAA | AA | A | ||
ポン | ヴィットーリオ・エマヌエーレ2世 | 2730m | A | AAA | A | B | |
ツェルマット | ヴァリス ぺニンアルプス | ヘルンリ | 3260m | AA | AA | AAA | B |
シェーンビール | 2694m | AA | AA | AA | B | ||
ドーム | 2940m | AA | AA | AA | A | ||
モンテローザ | 2795m | AA | AA | AAA | A | ||
ザースフェー | ブリタニア | 3030m | A | A | AA | B | |
ミシャベル | 3329m | A | AAA | A | A | ||
ヴァイスミース | 2726m | A | AA | A | B | ||
グリンデルヴァルト ヴェンゲン | ベルナー・オーバーラント山群 | メンヒスヨッホ | 3650m | AA | A | AA | A |
コンコルディア | 2850m | AAA | AAA | AAA | AA | ||
カンデルシュテーク | ブリュームリアルプ | 2834m | AA | AAA | A | A | |
フリュンデン | 2562m | AA | A | A | A | ||
ムートホルン | 2901m | AA | AA | AA | AA |
2(設備)のAAAは水洗トイレの設備がある。
屋外トイレの小屋は他の設備が素晴らしく整っている場合でもA/標準とした。
※の印は素朴な屋外トイレなので、夜間と荒天時は氷結してキケン!
標高のある山小壁での"お酒"
3000mを越す山小屋での飲酒はひかえたほうがよい。
アプローチで、相当の体力消耗があるから、まともに高山の影響をうけ体調を崩してしまう。また、ロープウェイ等の乗り物を利用して短時間に到達できた場合でもたくさんの水を飲んだほうが身体のためにはよく、コンディションづくりになる。
一方、2800m前後の標高の山小屋での、一汗かいて到着して飲む一杯のビールの味は格別である。山小屋によっては、食堂のカウンターにワイン樽が置かれ、磨かれたグラスがならんでいたり、さらには、生ビールの樽もあったりして嬉しい。こういうところでは、ミネラルウォーターを飲むよりジョッキを傾けたほうがいいにきまっている!天気の良い昼下がりの小屋のテラスは大ジョッキを片手に岩と氷雪の名峰、秀峰のパノラマをたのしむアルピニスト達の国際色豊かな交流の場となる。